緋色の7年間

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よくわかる金商法上の有価証券概念

こんにちは~

本日は、金融商品取引法における「有価証券」概念について解説したいと思います。

金融商品取引法の適用対象としての「有価証券」

金融商品取引法は、簡単に言えば、投資者保護のための法律です(同法1条)。投資にはリスクが伴いますが、リターンを期待する以上は、投資者自身の責任において行わなくてはなりません(自己責任原則)。もっとも、このような自己責任原則を適用するためには、そもそも投資者が適切に意思決定を行ったと言えなければなりませんから、取引には、情報開示等の様々な規制がかかるわけです(情報の非対称性の是正)。事業者側からすれば、規制によって様々な義務が課せられることになりますので、金融商品取引法の適用があると、対応にコストがかかってしまいます。ですから、当該取引が金融商品取引法の適用対象となるかどうかが極めて重要になってきます。

そこで、金融商品取引法の適用対象を明確にしておく必要が出てきます。金融商品取引法は「有価証券」と「デリバティブ取引」に適用がありますが、この記事では、もっぱら「有価証券」のほうを解説したいと思います(ちなみに、有価証券とデリバティブ取引の2つを総称して「投資商品」という用語が使われることもあります。本記事でもこの用語を採用したいと思います)。

当該取引が「有価証券」に該当すると様々な規制がかけられますが、金融商品取引法上の「有価証券」は、日常用語としての有価証券概念とは異なる概念となっています。これは、金融商品取引法が投資者保護のための法律であることから、投資性のある有価証券のみに同法の適用対象を限定するためです。

投資性のない有価証券(クオカードとか図書カードとかですかね)については、投資者保護の必要性がないので、金融商品取引法の適用対象とはなりません。逆に言えば、投資性がある契約(一種の匿名組合契約とか)については、証券でなくとも金融商品取引法の適用対象となる場合が出てきます(後述しますが、これを「みなし有価証券」と呼びます)。

◆「第一項有価証券」と「第二項有価証券」の区別

ここからが厄介です。「有価証券」の定義等は、金融商品取引法2条1項及び2項に規定が置かれていますが、条文構造が非常に複雑です。もう読みたくありません…。金融商品取引法上の有価証券概念には、「第一項有価証券」と「第二項有価証券」の2つが含まれますが(金商法2条3項参照)、これがものすごーーく分かりにくいのです。

なぜ2つに分けるのかというと、第一項有価証券のほうが第二項有価証券より投資商品の流動性が高いと思われるので、投資者を保護する必要がより強まると考えられるからです。「流動性」というのは、簡単に言えば、換金しやすさとか買い手のつきやすさのことですから、投資商品の流動性が高いと色んな人がそれを手にする可能性があるわけです。逆に、流動性の低いものはプロしか手を出しませんから、保護の必要性は弱まります。で、要するに、その流動性の異なる第一項有価証券と第二項有価証券とで、規制の内容が変わってきます。それにもかかわらず、1項と2項の分類は、投資商品の流動性で区別されたものではありません。衝撃的なことに、「第一項有価証券」というネーミングであるにもかかわらず、第2項の内容も含んでいるのです…(TT)

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繰り返しますが、「第一項有価証券」にあたるか、「第二項有価証券」にあたるかによって、募集・売出し等の情報開示規制の内容が変わってきます。事業者がとるべき対策も変わってきます。ですから、この区別はとても大切なのです。しかしながら、非常に複雑な条文構造になっているのが厄介なのです。この上なく複雑です。

ざっくり言えば、第1項は「紙」のもの、第2項は「紙でないもの」が規定されています。条文上は、証券・証書の有無で区別しているのです。たとえば、株券は1項9号、株式は2項柱書前段に規定が置かれています。有価証「券」ということなのかもしれませんが、時代遅れ感が否めません。第2項は「みなし有価証券」と呼ばれますが、なんでわざわざ紙のほうを基準にするのでしょうかね(そういう時代もあったのでしょうね…)。建前上は、紙のほうが投資商品の流動性が高いからだそうですが、振替制度(コンピュータ上で株式等をびゅーんする制度とか思っておいてください)が確立した現在では、もはや無意味です。

このような古いシステムを前提にするので、2項の「みなし有価証券」の中でも流動性の高いものを、「有価証券表示権利」と呼んで、「第一項有価証券」に含めるという操作をするわけです(3項)。たとえば、株券として発行されていない株式は、1項9号記載の有価証券(すなわち、株券)に表示されるべき権利ですから、有価証券表示権利にあたることになり、株券が発行されていないにもかかわらず株券と同様に「第一項有価証券」に該当します。この作業を補修工事と言うか、もはや条文が壊れていると言うかは、人によるのかもしれません。ともあれ、これによって、2項の内容が「第一項有価証券」に含まれるという異常事態が発生するわけです。これをざっくりとまとめたのが下の図です。

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◆「投資商品」の包括的定義と集団投資スキーム持分

以上を踏まえて、具体例を最初の図に書き足してみましょう。そうすると、次の図になります(※具体例は全て網羅していません。また、必ずしも並列に置かれるわけではない概念も説明の便宜上、並列に置いていたりしますので、あらかじめご了承ください)

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図はさくっと書いてありますが、条文はものすごく細かいのです…(TT)

図に記載しました「集団投資スキーム持分」というのが、実は、投資商品概念の包括規定です(2条2項5号)。集団投資スキーム持分とは、出資した金銭(または金銭に類するもの)を充てて行う事業から生ずる収益の配当・財産の分配を受けることができる権利のことをいいます。これによって、政令で定義を追加指定する必要がなくなります。日本の金融商品取引法は、限定列挙・追加指定方式ですから、投資商品の抽象的な定義規定が置かれていません。ですから、ある意味で、この「集団投資スキーム持分」こそが投資商品の抽象的定義規定になります(なんだか矛盾していますが、そういう法律なのです…)。

なお、金融審議会金融分科会第一部会報告(平成17年12月22日)では、「投資商品」について、次のような定義(基準設定)がなされています(※「投資サービス法(仮称)」というのは、投資家保護のための機能別・横断的法制のことであり、今の金融商品取引法のことです)

「中間整理」では、投資サービス法の対象となる金融商品(以下「投資商品〔…〕)について、可能な限り幅広い金融商品を対象とすべきとしつつ、
① 金銭の出資、金銭等の償還の可能性を持ち、
② 資産や指標などに関連して、
③ より高いリターン(経済的効用)を期待してリスクをとるもの
といった基準の設定を試みつつ、投資商品の具体的な定義については、投資者保護の観点から適当と考えられる商品について、集団投資スキーム、及びこれに類似する個別の投資スキーム、を含めて、可能な限り大きな括りで列挙するとともに、金融環境の実情や変化を踏まえてきめ細かい適用除外や商品指定ができるようにすることが適当と考えられるとされている。〔強調引用者〕

−投資サービス法(仮称)に向けて−金融審議会金融分科会第一部会報告の公表について:金融庁

今後、金融商品取引法に改めて包括的な定義規定を置くのかどうか定かではありませんが、現在の金融商品取引法は過渡的な法制ということなのかもしれません。

 

金融商品取引法の入門書・導入書としては、こちらですかね。

基礎から学べる金融商品取引法 第3版

基礎から学べる金融商品取引法 第3版

 

値段的には日経文庫でしょうか。入門になっているのかどうかよくわかりませんが、外観はつかむことができます。 

金融商品取引法入門 第6版 (日経文庫)

金融商品取引法入門 第6版 (日経文庫)

 

一般的な企業法務の用途であれば、下の書籍で足りると思います。これでわからなければ、法律事務所に投げたほうがいいかもしれません。

企業法務のための金融商品取引法

企業法務のための金融商品取引法

 

結局、刑法と関係がないじゃないかと思われる方もいるでしょうし、私もその自覚がないではないのですが、以上のことは経済刑法における証券関係の罪で問題になってきますので、このあたりも押さえておいてほしいところです。刑法は刑法理論だけやっていればいいわけではありません。

それでは~

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