ゆるふわ刑法ブログ

かぽーんと刑法を考えるブログです。司法試験の過去問解説とか、基本書の紹介とかやってます。たまにリアル社会のことも考えます。論の展開が粗いのと読みにくいフォントは仕様。

アメリカにおける正当防衛の考え方(後編)

こんにちは~

この記事は、アメリカの正当防衛論の後編です(→前編)。

◆思いっきり余談

実をいうと、私は、はじめにアメリカ法をアメリカ人の教授から英語で学んだので、日本語訳はあとから知りました。Consideration を「約因」と訳しているのも最近知ったくらいです(※アメリカ契約法 contract law における契約の成立要件は、申込 offer と承諾 accept のほかに「約因 consideration」があります。ちなみに、「約因」に関する日本の文献の説明はかなり疑問です…)。そのため、日本語訳にはちょっと自信がありませんので、あらかじめご理解いただけたらと思います(いまさら)

私は日本の知的財産法はあまりよく知らないのですが、向こうでは intellectual property は必修科目のひとつなのでそっちはある程度分かります(※日本の司法試験では選択科目)。けっこうアメリカ法は面白くて、日本では建物の空間的な区分所有が認められていますが、アメリカでは建物の「時間的な」区分所有が認められていたりとか(賃貸借ではない)、日本の抵当権と質権はアメリカでは同じ扱いをするとか、土地の所有って何メートルくらいの「深さ」と「高さ」までなのかとか(※地下の石油とか宇宙開発等で問題となる)、婚姻は宗教的な誓いが必要だったりとか、戸籍がないので州を跨いだらどうなるのかとか、連邦議会立法権が大幅に制限されてるけど州際通商条項でどこまで「ごまかせる」のかとか、威勢のいいラジオを流したこととそれを聞いたドライバーが事故を起こした場合の因果関係があるのかとか、いろいろ学びました。ちなみに、全部ソクラテック・メソッドでした(そして、これがそのまま法廷でのやりとり、すなわち当事者主義 adversary system になるわけです)

◆日米における「正当防衛」の理解の違い

余談が長くなりましたが、内容に入りましょう。解説できる自信もないのですが、がんばってみたいと思います。

日本の正当防衛論においては、条文上、退避義務の有無が曖昧なので、「急迫性」や「防衛行為の相当性」の要件などと絡めて議論の対象となっています(たとえば、井田・理論構造171頁参照)。ところが、前回見たようにアメリカ法(正確に言えば多くの州法)では、退避義務がないことが明言されているのです。これが Stand-your-ground law と呼ばれる所以です。

この理解の違いはどこから来ているのかというと、基本的には歴史的経緯の影響が大きいように思われます。そうとしか言えないのですが。歴史的経緯を詳しく見てもアメリカ史の勉強になるだけなのでここでは省略しますが、教科書(ホーンブックと言います)の類では「攻撃する前に逃げる必要はないと思われる」とか普通に書いてあったりするので、結局のところ「アメリカ人はそういう感覚なのだ」としか言えないような気もします(なお、日本では立法の歴史的経緯や社会的文脈をあまり気にしませんが、アメリカではかなーり気にしますので、本来は無視できません。法律によっては、日本で言うところの「目的」の規定に、ずらーっと、ながーく立法経緯が書いてあります。これを findings と呼びます)。もっとも、さすがに人を死に至らしめるような武力の行使(前回のフロリダ州法で言えば776章012節2項第2文にあたる)だけは「より市民的な観点から」問題にされるようです。説明しにくいのですが、日本人的感覚と同じような観点からと考えてください。ただ、これすらも少数説からの主張です。アメリカでは退避義務を負わないこと自体はほとんど自明のようで、日本人が思っているほど争われてはいません

なお、Stand-your-ground law の Wikipedia のページStand-your-ground law - Wikipedia, the free encyclopediaを見ればわかるように、最初に出てくる項目は "Effect on crime rates" すなわち「犯罪率への効果」(≒犯罪の抑止効果)で、しかも効果の分析には経済学者や統計学者が出てきます。アメリカでは実証的で定量的な考え方が好まれるのですが、正当防衛論でも同様だということです(※アメリカにおける刑罰の目的は主に4つあり、応報、抑止、更生、隔離です。日本の応報、一般予防、特別予防と同じかんじです。このうち、最も注目されているのが「抑止」ですが、ちょっと前くらいから修復的司法という考え方が出てきました)。日本で言うところの「法確証の利益」を、いわば「実証」しようとするものといえるかもしれません。で、実際に抑止効果があるのかという点ですが、現状、よく分かっていません(え

…というかんじです。例の一昨年の事件にしても、日本人の関心は、どうもアメリカ人の関心とずれているみたいで、日本で問題とされている点を調べてもほとんど出てきません。文化の壁は高かった…

かなり不完全燃焼な気がしますが、また別の機会に説明を補充できればと思います。

それではまた~

▼前編はこちら

 

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