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ゆるふわ刑法ブログ

かぽーんと刑法を考えるブログです。司法試験の過去問解説とか、基本書の紹介とかやってます。たまにリアル社会のことも考えます。論の展開が粗いのと読みにくいフォントは仕様。

司法試験「採点実感等に関する意見」のまとめ(平成26年度版)各論編

刑法 (新)司法試験

こんにちは~

刑法総論編に続きまして、今回は、後編の「刑法各論」の事案分析についてです。

考査委員からは「総論に比較して各論の問題点について的確に論述する能力が欠けているのではないか」との感想が寄せられています(H24・26頁)。また、「答案を書く際には,常に,論じようとしている問題点が体系上どこに位置付けられるのかを意識しつつ,検討の順序にも十分に注意して論理的に論述することが必要である」(H26・36頁)とされていますが、実際のところ、これを刑法各論の領域で実行することは言うほど簡単ではありません(対策記事として「刑法各論と構成要件要素」を作りました)

ということで、この記事では、平成20年から26年までの採点実感で具体的に指摘された点を、解説も加えつつ整理してみることにしたいと思います。

◆具体的にどこでつまずくのか

背任罪(特に抵当権関連)文書偽造罪(定義全般)については、基本的な知識の不足が指摘されており、総じて具体的な事実認定以前のレベルのようです。何よりもまず、この2種類の犯罪について正確な知識を身に着ける必要があります。

(1) 殺人罪

問題点として指摘されているのは、①殺意もしくは殺人の実行行為の認定(というよりも、殺人未遂罪の検討のスルー)と、②実行の着手(時期)の2点です。

①の殺意の認定について、これは殺意の認定に限らないわけですが、複数の事情を拾って評価すべき点が指摘されています。たとえば、よくない答案として次のようなものがあげられています。

甲の殺意を検討するに当たり,甲がVの死を受け入れるかどうか迷っていたことをもって,安易に殺意を否定し,その後,甲がVに医療行為を施さずにその生死を運命をゆだねることにしたという点について,十分に検討していない答案(H22・21頁)

殺意の認定に関しては、一般的には、①凶器の種類、②凶器の用法、③創傷の部位、④創傷の程度、⑤動機の有無、⑥犯行後の行動等が考慮されますが(原田保孝「殺意」刑事事実認定重要判決50選(上)278頁参照)問題文で主要事実が確定している場合にはそれを用いなくてはなりません。その際、「死亡することを認識しながら」や「死んでもかまわない」といったわかりやすい事情だけでなく、上に引用したような「医療行為を施さずにその生死を運命にゆだねる」といった事情の評価にも注意を払う必要があります。

殺意の認定以前に、殺人(未遂)罪を検討しようとさえしない答案も問題だと指摘されています。拳銃で発砲したり、ナイフで刺すような行為について、殺人(未遂)罪の検討をしないなどということはありえませんが、以下のような「車から振り落とす行為」はスルーしがちですし、とりわけ死亡結果が発生していない場合には、殺人未遂罪の検討が抜け落ちやすいです。生命に危険を及ぼしかねない行為であれば、とりあえず殺人(未遂)罪を検討するくらいのつもりでいたほうがよいかと思われます。

甲が,車を加速,蛇行させて,しがみ付いていた乙を車から振り落とすという生命に対する危険性の高い行為に及び,乙に脳挫傷等の大怪我を負わせ,意識不明の状態に陥らせるという重大な結果を生じさせたにもかかわらず,甲について傷害罪の成否だけを論じ,殺人未遂罪の成否を一切論じていない答案が予想以上に多かった。このような答案については,事案を分析する能力の欠如をうかがわせることから,低い評価をせざるを得なかった。(H23・25頁)

このほかに、一度殺意を持ちながら、その後に殺意を喪失した場合も、殺人罪の検討をスルーしやすいケースのようです。採点実感では、不作為の殺人の事案において、「授乳を再開して以降は殺意がないことを理由に,殺人罪の成否を検討せず,保護責任者遺棄致死罪の成否のみを検討する答案」(H26・34頁)は、問題があると指摘されています。

殺人罪の問題は、総論の問題と絡めて出題されることが通常です。というより、シンプルな構造の結果犯なので、現実の事案で(事実認定の問題を除けば)総論的な観点が問題となりやすいのです。ちなみに、同じくほぼすべて結果犯で占められる財産犯についても、総論的なことが問題となりやすいです殺人罪よりも条文構造が細かいので、それだけ問題となることは少ないですが)

ここで、総論と絡めて殺人罪で特に問題となるのは、②の実行の着手(時期)です。おなじみの(?)クロロホルム事件(最決平成16年3月22日刑集58巻3号187頁)と類似の事案が出題されています。これについては、同判例の規範と考慮要素を正確に押さえる必要がありますし、実際に多くの人が押さえられているようですが(H25・26頁参照)、同判例の3つの要素は一般的な要件でないことには注意が必要です。

また、場合によっては、間接正犯が絡んできますから、その場合には、一歩踏み込んだ論述をする必要があります。

殺人罪の成否につき,多くの答案が間接正犯の成否について一応言及していたものの,そのほとんどが,「乙が途中でAの存在に気付いたから間接正犯は成立しない」旨簡潔に述べるのみで,間接正犯の実行着手時期に言及した上,殺人予備罪にとどまるのか,殺人未遂罪が成立するのかを明らかにした答案は僅かであった。(H25・27頁)

(2) 拐取罪

ついにH26の論文式試験で出題されました。拐取罪判例(最決平成17年12月6日刑集59巻10号1901頁)が出てきたので、そろそろ出題されると思っていたのですが、やっぱり出てきました。

司法試験の問題は、多くはだいたい10年以内の判例・裁判例がベースになっているみたいなので、ヤマは張れないことはないです。というより、犯罪には「流行」のようなものがありまして、実務的・理論的な関心がそこに向くので、ある意味ではそれが試験に出題されるのは当たり前のことです。たとえば、「少子高齢化→高齢者を狙った特殊詐欺の増加」とか、「家族共同体の弱体化→幼児に対する不作為の殺人や遺棄」などが現在の「流行」です。H26試験の拐取罪の問題も、「家族共同体の弱体化→別居→親権の行使のありかたに関わる問題」という「流行」の一端を象徴する事案です。

問題点として指摘されたのは、①「略取」と「拐取」の区別がついていないこと、②未成年者略取罪の保護法益関連の2点です(H26・35頁)

①について、「略取」とは暴行または脅迫を手段とする場合であり、これに対して、「誘拐」とは欺罔または誘惑を手段とする場合をいい、両者を合わせて「拐取」と呼びます(西田・各論6版76頁)

②について、「未成年者略取罪の保護法益を親の監護権とする見解に立ち,甲〔他方親権者〕のAに対する養育状況を問題にすることなく,安易に同罪を成立させる答案」(H26・35頁)が問題点としてあげられています。上の平成17年判例は、「監護養育上それが必要とされる特段の事情」がないかぎり未成年者略取罪が成立するとしていますから、「衰弱が深刻なAを救出する行為と評価する余地もある」(H26・34頁)としても、他方親権者が適切に監護権を行使している養育状況があれば、有形力を用いてまで他方親権者から子供を連れ去る必要はないと考えるべきことになるでしょう。

(3) 窃盗罪

財産犯では、具体的な金額についてどのような犯罪が成立するかを検討しなくてはならないことが指摘されています。

「窃盗罪の限度」と抽象的に示したのみではこの事例における乙の罪責を的確に示したこととはならず,そこでいう「窃盗罪」とは300万円の窃盗であり,2万円に関しては責任を負わないという趣旨なのか,それとも,302万円の窃盗の限度では責任を負うという趣旨なのかを明らかにしなければ乙の罪責を正確に認定したとはいえない。この点については,多くの受験生が罪名を決めただけで安心してしまったものと思われた。(H20・17頁)

ちなみに、二項詐欺罪や二項強盗罪なると、窃盗罪の場合よりもさらにややこしくなり、財物や具体的な金額のほかに、財産上の利益を受ける地位などの抽象的な利益も検討の対象に入ってきますから、注意が必要です。対策としては、判例集を読むのがよいかと思います。たとえば、二項強盗罪の事案ですが、「暗証番号」が財産上の利益にあたるとした高裁判例があります(東京高判平成21年11月16日判時2103号158頁。重判平成23年度157頁)。正確に言えば、「ATMを通して当該預貯金口座から預貯金の払戻しを受ける地位」ですが、おそらく問題文では「暗証番号を聞き出した」としか書かれないでしょうから注意が必要です。

(4) 強盗罪

強盗罪に関しては、「犯行を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫」の認定が問題です。

「反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫」に関して,甲のBに対する犯行が行われた状況のうち,A方の屋内でBが容易に助けを求められる状況にないこと等にも触れるなど,幅広い事情について目配りして結論を導いた答案(H20・16頁)

反抗抑圧に足りる程度の暴行といえるか,財物奪取と暴行との関連性は認められるかという点にまで目を行き渡らせて具体的に論じている答案(H20・17頁)

なお、同じ事情が、別の要件で評価される場合があることにも注意が必要です。

甲乙間の共謀内容及び甲に成立する強盗罪の枠組み(強盗の機会性ないし因果関係等)の両方の観点で問題となり得る(H20・16-17頁)

(5) 横領罪

主に問題点として指摘されているのは、①「占有」の意義・認定と、②既遂時期の2点です。

①については、採点実感がいうには「濫用のおそれのある支配力」の観点を論じるべきということらしいですが、別にこの表現でなくとも構わないでしょう。たとえば、自己が占有することによる「処分可能性」から「事実的支配+法律的支配」を指摘し、事実を認定・評価すれば足ります(西田・各論6版234頁参照)

「自己の占有する他人の物,の要件を満たす」旨の結論だけを示し,具体的に,占有の対象が「Aの口座に預金として預け入れられた現金」たる物であることや,その所有者・占有者がだれであるかが明示されていないもの。(H21・20頁)

業務上横領罪における「占有」の解釈について,「事実的支配」のみ論じ,「濫用のおそれのある支配力」の観点が論じられていない答案(H24・24頁)

②の既遂時期については、不動産の横領で問題になりました。横領罪には未遂犯処罰の規定がないので、不法領得の意思が外部に発現した時点で既遂になります。要するに、基本的には民事法上の意思表示の時点で既遂に至るわけですが、登記が対抗要件になっている場合(不動産の二重売買や抵当権の設定のケース)では登記の完了をもって既遂となると考えられています(西田・各論6版247頁参照)

業務上横領罪の成否を論じるに当たり,不動産の横領の既遂時期について何ら触れられていない答案が大多数であった。(H24・25頁)

(6) 財産犯の区別?

とりわけ財産犯において問題となるものですが、A罪とB罪の区別が問題とされます。これまでの司法試験では、具体的には、背任罪と業務上横領罪の区別が度々問題とされています。しかしながら、区別を論じるべきかどうかについては、なぜか採点実感で判断が分かれています。

区別を論じるなとした採点実感はこちらです。

横領罪と背任罪の関係について,そのいずれを検討すべきか,両罪の区別に関する一般論を長々と論じる答案。このような点を論じても,結局は,個別の犯罪構成要件の充足を論証しない限り甲乙に成立する犯罪を確定することはできないのであるから,詳細に論述することに余り意味はない。(H21・19頁)

逆に、区別を論じるべきだとした採点実感はこちらです。

抵当権設定行為について,横領と背任の区別を全く論じないまま,業務上横領罪又は背任罪の成否を論じている(H24・24頁)

基本的に法定刑の重い構成要件(つまり横領罪)の適用から検討しますから、ほかの罪との区別を論じることは論理的にありえません。法定刑の重い横領罪が成立すれば、背任罪の成立が問題となることはないからです(山口・各論2版333頁以下では、「まず、委託物横領罪の成否を問題とし、その成立が否定された場合、次に背任罪の成否を問題とすることで足り、委託物横領罪と背任罪の区別に関する特別の議論は不要である」としています)

そう考えると、結局は横領罪の範囲が問題となるだけになります。これについて、判例は、横領罪の客体である「他人の物」を所有権侵害に限って理解し、横領罪の構成要件該当行為である「横領」を自己の名義又は計算による不法領得の意思を外部に発現させる行為と捉えています。このことから、判例は、結果的には、背任罪の機能をいわば「二項横領罪」と理解しているように思われます(西田・各論6版267頁も参照)

(7) 放火罪

放火罪においては、公共の危険の意義などが問われていますが、わりと多くの人ができていたみたいなので、この記事では省略します(H25・26頁参照)

(8) 住居侵入罪

採点実感では、「住居侵入罪の保護法益を住居権とする見解に立ち,甲〔現に家に住んでいる人。別居中の妻〕が住居権者であるかどうかの問題と,乙〔一度家から出て行った人。別居中の夫〕が住居権者ではなくなったかどうかの問題とを混同している答案」(H26・35頁)が指摘されています。この指摘の趣旨は理解しにくいのですが、おそらく、一度家から出て行った人がその家の住居権を喪失したことを認定するだけでは、「住居権者の意思に反した立ち入り」の認定としては不十分だということでしょう。つまり、仮に住居権を喪失していても、現に住居権を持っている人の同意が期待できる場合であれば「侵入」にはあたらない場合が出てくるということです。

(9) 業務~罪(業務性)

簡単なところですが、業務性の定義の一部が抜け落ちることが頻発しているようです。これは、業務上過失致死傷罪業務上横領罪で問題となりますが、それぞれ定義が異なるので注意してください。

単に「人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為」とだけ述べ,「他人の生命身体等に危害を加えるおそれがあるもの」という点についての言及がない(H22・21頁、H24・24頁)

業務上過失致死傷罪における「業務」とは、判例によれば、「本来人が社会生活上の地位に基き反覆継続して行う行為であって、かつその行為は他人の生命身体等に危害を加える虞あるものであることを必要とする」とされます最判昭和33年4月18日刑集12巻6号1090頁)

他方で、業務上横領罪における「業務」とは、「委託を受けて物を管理(占有・保管)することを内容とする事務」をいいます(山口・各論2版314頁。なお、本来の業務に付随する事務については、本来の業務と密接な関連性を要します)

以上、採点実感のまとめでした~

それではまた~

 

▼総論編

 

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