緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

二次創作って違法なの?

回答:わからない。

ということで、本日のテーマは「二次創作」です。

もう結論を先出ししていますけれど、全然わかりません。なぜならば、著作権法(昭45法48)をはじめとする知的財産法領域は、特に定型的な判断が困難な領域だからです。

弁護士でもかなりの人たちが専門外の領域であり(司法試験も選択科目だし、選択してても著作物性判断とか類似性判断とか軽いし、何よりリーガル・サービスの市場規模が小さいし)、かといって、知財が得意な事務所とか弁護士さんとかタイムチャージ高そうだし(偏見?)。そのわりに「地雷」(リーガル・リスク)がたくさん埋まっているというおそろしい分野でもあります。著作権法だからといって「著作権」だけを規定していると思ったら大間違いですし、著作権法だけで具体的な事案の処理が完結しません。もう契約書とか利用規約とか穴だらけだよね、この領域(アメリカみたいに必修化しようよ)

もちろん、この記事でも扱いきれないので、ネットで正確な法律情報を探そうと思わないでください。ほぼ100%の確率で誤謬を含みます(自虐)。どうしても必要なら、適切な法律事務所へ行ってくださいね。というか、そもそも、そのために弁護士という職業があってですね…

◆問いの立て方の不適切性

まず、しばしば見かける「二次創作」という語は法律用語でも定義された用語でもないので、この用語を使用して議論すること自体が不適切です。具体的な事案を見ない限り、どうやっても判断できません。ぜったい、ぜったい、ぜーーーーーったいに不可能です。

次に、「違法」という用語ですが、この語を議論する実益はあまり大きくありません。「違法」とは、一般論として、法に反する行為又は事態をいいます。が、リアリズム的な観点からすれば、要するに行為としてやっていいのかどうかの話なので、特に気にしないでよいと思います。法を行為規範として強調すれば「実社会における行動準則」としての性格が前面に出ますし、法を裁判規範として強調すれば「強制力」としての性格が前面に出ます。これらの見方は両立するので、どちらの見方が正しいというものでもありません。

結局のところ、問いの立て方(タイトルにしちゃったけど)自体が不適切であって、正しくは、「~といういわゆる二次創作をしたいときに誰の許諾を要するか、その許諾がなかったときはどうなるのか。」です。この文脈において、著作物の利用行為が「違法」かどうかを論じることは、基本的に無意味ではないかと思われます。

◆問いに対する回答

で、具体的に誰の許諾が必要かは、具体的な事案に依存するので答えられません。一口に「二次創作」といっても、具体的な事実関係次第で全然わからないのです。著作権者から許諾を得れば足りると考えていらっしゃるのであれば間違いですので、しかるべき法律事務所に持ち込まれるのがよろしいかと思います。「著作者」と「著作権者」の区別がつかないとか、「製作」と「制作」の区別がつかないとか、「公に」と「公衆に」の区別がつかないとか、「相続」が何なのかよくわからないとか、著作権以外にも著作権法上の権利があることを知らないとか、民法・商法・会社法・商標法・不正競争防止法などの関連法規がわからないとか、そういったレベルなのであれば、自分で判断しないほうがいいです。とりわけ、いわゆる二次創作で利益をあげようとする(利益があがる)のであれば、法律事務所にアウトソースする経営判断は必要です。

それでは、誰かから許諾を要するとして、その許諾を得なかったらどうなるのか。なぜか刑事責任著作権法第8章参照)に目が向きがちですが、一応、権利者側としては民事責任著作権法第7章等参照)を問うことから考えるはずです。刑事責任のほうが、金銭的・時間的コスト等のハードルが高いからです。権利者の関心は「侵害」を止めることなので、刑事事件化させる必然的な理由はありません。被疑侵害者に対して民事上の差止請求著作権法112条1項)や損害賠償請求民法709条)を行い、これが受け容れられれば足ります。

刑事事件化せざるを得ないのは、事実上、住所や連絡先がわからないとか、悪質性が強いとか、そういう場合に限られてきます。動画サイトやSNSに通報機能みたいなのがついていたりしますけれど、あれは運営側の負担を減らす一方で、匿名の利用者を保護するためのものでもあるわけです(仮に通報機能がないとすると、権利者は刑事事件化せざるを得ず、結果的にサービス利用者を委縮させてサービス自体が衰退し、また、最悪の場合には運営側が刑事責任等を問われかねない)。

そういうわけで、さしあたり、コスト的な理由から、まず「その著作物を使うのをやめてくれ」という趣旨の警告状が届くかもしれません。訴訟外において著作物の利用について差止めを求めてくるわけです。仮に、このブログに著作権法に反する記事がある、などとクレームがつけられる場合には、たぶんここで掲載しているアドレス宛に警告メールが届きます。あるいは、直接、運営主体に連絡がいってアカウント停止措置等がとられるかもしれません。場合によっては、民事訴訟を提起されます。それでも解決する見込みがないなら、おそらく刑事事件化されます。

なお、たまに、SNSとかで「このブログ、著作権侵害してね?」みたいなことを書く方がいますが(書かれたことないけど)、たとえ自力救済のつもりだとしても、それ自体が名誉毀損(刑法230条1項)等を構成します。法律家がその方法を勧めることは、基本的にないと言ってよいと思います。

と、いうことで、

回答:わからない。

えーと、ついでなので書いておくと、こういうわけわからない複雑な権利処理を簡明・簡略にするのが、JASRAC等の著作権信託機関の存在意義というわけです(権利の一元的管理)。音楽を使いたいとき、JASRACから許諾を得れば足りるわけです。今のところ、私の知る限りでは、音楽領域でしか著作権信託機関がありませんが、個人的には、あったほうが断然ラクだと思います。というか、いつ他人の権利を踏むか、こわくないですか??

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