ゆるふわ刑法ブログ

かぽーんと刑法を考えるブログです。司法試験の過去問解説とか、基本書の紹介とかやってます。たまにリアル社会のことも考えます。論の展開が粗いのと読みにくいフォントは仕様。

製作委員会方式と集団投資スキーム

0 イントロ

こんにちは〜

本日のテーマは、そこそこ話題の「製作委員会」です。

先日、アニメーターさんとかの労働環境問題が報道されてましたけれど、製作委員会のせいじゃないんで。広告代理店は関係ないんで(某事件で有報記載のコポガバ体制がハリボテだってわかったけどさ)。というか、そもそもの原因は労働環境ですらないので。あれは企業間の交渉力の問題であり、労働法領域の問題じゃなくて独禁法とか下請法とかの経済法領域の問題だろうと思われます。制作会社(というか下請制作会社)に労基署が入ってもぜーーーーったいに根本的な解決にはなりません。公取が発注会社に入ったほうがマシなかんじがします。いや、入ってもたぶん解決しないと思うけど。

というわけで、「製作委員会」って何なのよ、というお話です。私自身は今のところ当該業界とは何の深い関係もないですし、現在の契約書のサンプルとかも持ってないので、具体的なお話はできるだけ当事者の方からお聞きください。

えーと、とりあえず冒頭で、誤解を生じやすい用語法について、簡単に説明しておきたいと思います。

制作」者とは、実際に作品を創る者(クリエイターとかクリエイターが所属する会社とか)のことです。これに対して、「製作」者とは、その作品の創作等につき経済的負担を負う者(投資者)のことです(※著作権法上の語法と同じ)。したがって、「製作委員会」方式は、「委員会」という組合民法667条)を投資者とする投資スキームの一種という意味になります。他方、実際に作品を創るのは「制作会社」です。なお、過去に製作委員会方式が「集団投資スキーム持分金融商品取引法2条2項5号)に該当するのではないか問題というのがありまして、現在では適用除外となっているらしいです(あの細かい法令はもう読みたくないので条文番号は確認していません。たぶん施行令1条の3の2)

1 業界の抱える根本的な問題

エンタメ業界、とりわけ映画やアニメ、ゲームなどの作品を創る業界が抱える根本的な問題についてお話ししておきましょう。後述するように、製作委員会方式は、このエンタメ業界に内在する問題と関係しています。

その問題とは「資金調達」です。

業界の構造というかビジネスモデル上、どうやってもファイナンスの問題が深刻化するのです。なぜならば、将来、その作品がヒットするかどうかなんてわからないからです。ヒットするかどうか全然わからないハイリスクなプロジェクトにお金を出そうとする人がいるのか、ということが問題なのです。

古今東西いつ何時たりとも一定の需要が見込まれる生活必需品(たとえば、食料、衣服、家具など)とは異なり、エンタメ作品は、ほぼ純粋な嗜好品です。あー、アニメがなきゃ生きていけないとか、そういうツッコミはいいんで。そういう意味では、必ず売れる、という代物ではありませんし、市場としての安定性が後退します。さらに、周知のように近年では価値観の多様化が進み、それに応じて顧客の嗜好も多様化しています。そうすると、作品市場は段々とニッチ市場になっていきます(「にわか」を嫌う閉鎖的意識って市場を縮小させて業界全体を潰すからほんとやめてくれろ)。で、こうなると、売れるかどうかわからないという高度の不確実性=リスクを伴うにもかかわらず、市場規模が小さい=どれだけ売れても投下資本の回収が難しいという非常に苦しい状態に陥ります。また、技術的進歩により作品制作自体が比較的容易になっているため、競合作品も増え、一つの作品だけに購買行為が集中しにくくなっています。

このようなハイリスク・ローリターンなプロジェクトに対して、どのような対応が取れるでしょうか?

2 リスク分散の迷宮

ここから、方法論的には、2つの解決の道があります。

  1. 確実にヒットする作品を創る
  2. 作品がヒットしないリスクを分散する

前者はテレビドラマとかでよく行われているヒット作(の方向性)を模倣することとかですかね。アニメなら続編をつくるとか。ヒットしている原作を映像化するのも、一から映像作品を創るよりヒットする可能性が大きいからです。しかし、作品がマンネリ化したり映像作品単体の制作が難しくなったりするというエンタメ業界的に致命的な問題があります。作品としての安定性を重視し過ぎれば、創作活動とは真逆の方向に行き着くことにもなりかねません。

では、後者のほうはどうか。

まず考えられるのが、ペーパーカンパニーである特別目的会社(SPC)を設立してそこに作品に関する著作権を集めて一定数プールして証券化する手法。信託構成でも何でも結構ですが。通常のファイナンスは属人的な与信リスクを基礎とするので関係のない資産等によるノイズが入りますが、「証券化」によれば特定の財産(財産権)の集合体を信用の基礎にできるのでリスクを抑えられる……はずだったんですけど、そもそも著作権から生み出される利益の計算ってどうするんですかね。普通の評価手法で本当に計算できてるんですかね、みたいな話になりボツ。実際にやってみてうまくいかなかったとかなんとか。結局のところ、将来、作品が売れるかどうかなんて全然わからないからです。

次に考えられるのが、作品ごとに合同会社だか有限責任事業組合だかを設立する手法。もちろん、手続とかがめんどくさいのでボツ。一括払込みの問題とかもあるし。設立した法人の使い回しも考えられなくはないですが、そもそも法人として制作事業部を抱えられるくらいなら、広告代理店とかが制作会社を株式交換でも吸収合併でも第三者割当増資でもなんでも結構ですけれど買収すれば足りるわけで、そうしないのは恒常的に制作事業部を設置できるほど資金面で余裕がないからなんだと思います(たぶん)。

というわけで、「民法上の組合」という素朴なスキームが採用されるわけです。作品ごとに構成会社が小分けにされたリスクを引き受ける方式、ということですね。構成会社(出資者)が無限責任を負うのは投資スキームとして致命的なかんじがしないではないですけれど。これが「製作委員会」という方式です。単なる投資スキームの一種です。「投資(製作)」を「組合(委員会)」で行います、という実にシンプルなネーミングですね。誤解を招いているけれど。

製作委員会方式のメリットというのは、構成会社が得意な分野で稼ぐことができることです。というか、むしろただの組合なので、つまり各会社の寄せ集めというにすぎません。契約上はともかく、たぶん現実的には厳格な意思決定方式はとられていないと思います。極めて日本的なセクショナリズムなので、全体としての統制が取りにくいという側面があるはずです。幹事会社があるとはいえ誰かが明確にトップに立たない会議体のようなものではないでしょうか。見方によっては「なわばり」意識でつくられているともいえるので、他の構成会社に口出しするということはあまりないはずですし、法的なスキームとしても口を出しにくい構成となっているものと評価できます。で、誰がどうやって制作に口出しするって?

まとめると、製作委員会方式というのは、基本的には、委員会構成会社にリスクを負わせて各構成会社が自分の得意なチャネルで稼ぐという方式なのです。この意味では、①投資におけるリスク分散の仕組みという側面と、②分業の仕組みという側面とがあるわけですね。

3 ファイナンス類型からの大雑把な考察

上にあげた手法は、簡単に言えば、当たったらそこに投じた資金を回収できるというものでした。そうすると、当たった作品で他の作品の損失を補う構図になります。これらは製作委員会レベル(投資レベル)の話であって、制作会社が製作委員会に入っていない場合には制作会社の収益とは何の関係もありません。業務委託契約(請負契約)の関係ですので、作品がヒットしてもヒットしなくてもフラットな業務委託料。しかし、制作会社が製作委員会に加わるには資金面での体力がなくリスク耐性がなさすぎます。一度の失敗で会社が傾きかねません。

では、制作会社が独自に資金を調達する手はないのでしょうか?

資金調達手段のテンプレは、事業収益を除けば、だいたい次のとおりです(本当はコーポレート・ファイナンスとプロジェクト・ファイナンスとは異なるのですがその辺は気にしてはいけない)

  1. エクイティ
  2. デット
  3. パブリックマネー
  4. 寄付・クラウドファンデイング

えーと、①のエクイティは、今回のケースではまず無理ですね。比較的小規模なことが多い制作会社が新株発行などの大規模資金調達をやるには信用が低すぎて買い手がつきません。オーバースペックだし。②も似たようなもので、社債発行とかも、まずありえない手ということになるでしょう。金融機関からの借入れも同様に無理です。金融機関からの借入れという点ではノンリコースローンという手もなくはないのですが、保証制度の面で不安が残ります(この点は深く突っ込まないというか今の私のキャパ的に無理。そもそもここは刑法専門のry)

③は魅力的ですが、助成金やら補助金やらを使うと行政のヒモがつきますので、作品の表現が抑制されがちです。作品にもよりますけれど、ちょっと使いにくいかんじがします。公的機関がためらいなくプッシュできるような範囲の表現にとどめなくてはならないのが欠点です。たとえば、性的表現とか暴力表現とかは使いにくくなるかもしれません。

ということで、④の特にクラウドファンディングに流れるという背景があります。最近では、クラウドファンディングで成功した作品とかありますけれど、むしろクラウドファンディングを使わざるをえなかったとも考察できます。この手法による場合、事前に個人がお金を出すという点で、どれだけの個人がどこまでのお金を出してくれるのかがポイントになるわけですが、まだ完成してもいない現に存在しない作品について、どうやって出資してもらえるだけの信頼に足りる情報を開示するのかということが問題になります。

ということで、やはり依然として製作委員会方式に依存せざるをえないわけです。

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